1月10日


シネトピアプラスの在廊中は、
幾郎さんから頂いた自費出版本、
「追悼 室野井洋子」を
読んで過ごしていました。

色々な想いで、
静かに綴られる室野井さん。
素敵な仲間による、
活字や写真に変換された愛情。

読む度に大きな喪失感。
でも、なんて綺麗な悲しみ
なんでしょう。
寂しさを昇華できる達人達に
囲まれて輝く、比類なき魅力。

自分はさておき、
優しく知的な文章の連続を、
沢山の人に体験して貰いたいけど、
300部の限定本とのことなので、
せめて、カヨさんの寄稿文だけでも、
ナイショで載せてしまおう。

こんな風に気持ちを表せる人と、
一緒に作品を生み出せてる自分が
幸せだと思ったので、つい。




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 室野井さんが入院されたとき、すぐに退院して引越したいとおっしゃったので、小磯が、急いで条件に合いそうな家を探すことになった。そして、見つけたという家。急な長い坂を登った先にある、緑豊かでとても見晴らしのいい、静かなアパート。結局、あの頃の室野井さんにその環境は厳しすぎる、などの理由で却下となったのだけれど、小磯はあの家に室野井さんが住んでいたらとても素敵なのに、とずっと言っていた。

 つい先日、夕暮れにふと思いたって、ふたりでその家のところまで、歩いて行った。本当に急な、長い長い、坂。だけど、とても道幅が広くて、気持ちの良い坂。途中看板が立っていて、地域のひとたちで「ひだまり坂」と名付けた、と書いてあった。たしかに、こんなに道幅が広く空が近ければ朝なんかよく陽が当たるだろうな。息がくるしくなるほどのきつい坂をほとんど登りきるあたりに、ようやくそのアパートは姿を現したが、小磯の見つけた部屋にはもう誰かが住んでいる様子だった。私たちは黙って、少し離れたところからその場所を見つめ、部屋の窓からの見晴らしを想像しながら、迷子になって途方に暮れているみたいな格好で、しばらく立ち尽くしていた。札幌の街を見下ろすかたちのその窓からなら、夏、室野井さんが好きだった豊平川の花火も見えそうだった。浴衣姿の室野井さんを、思い出したりもした。

 それから、そのアパートのすぐそばにある小さな公園に立ち寄った。ブランコが二つあったので、ひとり一つずつ座って、漕いで、足の下に広がる、綺麗な夕暮れの街を眺めた。さみしかった。こんな素敵な夕暮れ、室野井さんの家があのアパートで、私たちは遊びにきたところ、ちょっと早く着いてしまったのでこうしてブランコを漕いで時間を潰しているところ、だったら、どんなに良いだろう。室野井さんのお家で、綺麗に盛り付けられた素敵なお料理に、よく冷えた純米酒。室野井さんの、知性とユーモアに満ちた、それでいて少女のようにかわいらしい、楽しい楽しいおしゃべり。今年のお正月も呼んでいただいて、楽しく飲んだ。今年の、お正月なんて、ついこの間ではないか。

 私はずっと室野井さんの大ファンだったから、室野井さんは、ふだんのときも、ダンスをしているときの佇まいのまま、私の前に居てくれた。さいごまで、弱いところを見せないまま、美しいまま、だった。私はそんなかっこいい室野井さんに少しでも近づきたくて、少しでも学びたくて、いつもじっと、耳を傾けてきたはずだ。室野井さんのダンスを、その優美な身のこなしを、じっと、見つめてきたはずだ。それなのに、私は今だに、少しもかっこいい女性になれていない。今だって、くよくよしてばかりだ。何を聞いてきたの、何を見てきたの、と笑われてしまう。

 二人で坂道を下りながら、「あの坂を登ったところに室野井さんは住んでいる」と想像することにしようか、などと話しあっていたら、少しだけさみしくなくなった。振り返ると、いつの間にか暗くなった坂の上に、たくさんの家のあかりが灯っていて、とても綺麗で、あの中の一つが、室野井さんのお家だ、と思った。

 ありがとうございました、と言いきるには早すぎるほど、まだまだ何も身についていないから、せめてあともう少しだけ、思わせておいてください。「あの坂を登ったところに室野井さんは住んでいる」と。
また勝手なこと言ってる!って、室野井さん、怒るかな。笑うかな。

カヨ
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